集合論

 集合論では、原始的述語がまず1つ現れる。それは記号∈で表される。これは2項述語になる。a∈A と書いて、「a は A の元である」と読む。もちろん、a と A は何らかの個体である。他にもいろいろな読み方があるが、本質は、2項の述語であるということ。

 Pを述語、aを個体とする。P[... , a, ...]を a∈{x|P[... , x, ...]}のように変形してみる。「...」には適当な個体が並んでいるとする。記号∈の右側に現れるのは、クラスと呼ばれる個体である。P[... , a, ...]が正しい命題なら、個体aはそれを満たしているので、{x|P[... , x, ...]}の元である。つまり、a∈{x|P[... , x, ...]}は、このように解釈できる。{x|で外に括り出されたxは、束縛変数である。命題を束縛して新しい命題を生み出すのとは異なり、命題を束縛して新しい個体を生み出すものである。この個体を、派生的個体と呼ぶことにする。もちろん、xの位置にある項は使用不可。「...」の中に個体があれば、クラスは、パラメタ化された個体になる。

 個体の生成規則を立てる。(3) Pを述語とする。{x|P[... , x, ...]}は個体として扱うと取り決める。xは派生的個体を生成する束縛変数、派生的命題を生成する束縛変数とは区別する。

 述語論理の公理系に追加する。そして、それを集合の公理系とする。
! [8] Pは任意の述語、aは任意の個体とする。
!   (P[... , a, ...])⇒(a∈{x|P[... , x, ...]})、
!   (a∈{x|P[... , x, ...]})⇒(P[... , a, ...])、
!   (P[... , a, ...])⇒(∃x(P[... , x, ...]))、
 [8] Pは任意の述語とする。
   ∀y((P[... , y, ...])⇒(y∈{x|P[... , x, ...]}))、
   ∀y((y∈{x|P[... , x, ...]})⇒(P[... , y, ...]))、
   ∀y((P[... , y, ...])⇒(∃x(P[... , x, ...])))、
の形の命題はすべて、正しい命題と取り決める。
 [9] ∃x(P[... , x, ...])は正しい命題とする。どの個体とも一致しない文字列aを作り出しておき、命題P[... , a, ...]を正しい命題とするような個体として取り扱う。この個体aを原始的個体と呼ぶことにする。
(ここら辺はオリジナルなので、かなりあやうい。[8]は、!の付いてる方と、付いてない方どちらを採用してもいい。統一感が決めてになると思うが…)

 さて、これでようやく公理論的集合論を始められる。それは、公理を追加する形で行われる。公理とは、[1][2][3][5][6][8]などのように、最初から正しいと取り決めた命題をさす。公理以外の正しい命題を、定理と呼ぶことにする。

 ここでちょっと、用語の整理。出て来た用語は、
  原始的命題、派生的命題、命題、正しい命題、正しくない命題、
  原始的述語、派生的述語、述語、
  原始的個体、派生的個体、個体、
  原始的記号、派生的記号、
  公理、定理、
である。

 この時点で具体的なものが出てるのは次の通り。原始的述語は、∈のみ。派生的述語は、便宜上のもの、なので、存在せず。派生的個体は、クラスそのもの。原始的個体はまだ、なにも決めてない。これから、∃x(...)の形の公理を追加していくことで、増えていく。さて、原始的個体と原始的述語から構成される命題は、原始的命題と呼んでも違和感はないが、派生的個体が混じる個体と原始的述語から構成される命題は、原始的命題と呼んでいいだろうか。とりあえず、そうしていいとしておく。原始的記号は、∨、¬、∀。派生的記号は、Λ、⇒、∃。


 おまけ。ラッセルのパラドックスの話。

 {x|¬(x∈x)}∈{y|¬(y∈y)}は命題の形をなしている。だから命題である。だが、まだ正しい命題かどうかは決めていない。2つの個体が同じ、という性質はまだ定義してないが、個体{x|¬(x∈x)}と個体{y|¬(y∈y)}は同じと考えると、X∈X という形をしているので、Xは{y|¬(y∈y)}に含まれない。つまり、
  ({x|¬(x∈x)}∈{y|¬(y∈y)})⇒(¬({z|¬(z∈z)}∈{w|¬(w∈w)}))
は、正しい、と言えそうだ。同様に考えていく。¬(X∈X)が成立しているならば、Xは{y|¬(y∈y)}に含まれる。つまり、
  ¬({x|¬(x∈x)}∈{y|¬(y∈y)})⇒({z|¬(z∈z)}∈{w|¬(w∈w)})
も、正しい、と言えそうだ。AはX∈Xの略としよう。これは、A⇒(¬A)⇒A⇒(¬A)⇒... と堂々巡りする命題となる。もし、最初のAが正しいと、¬Aも正しいことになってしまい、システムは矛盾している、ということになる。これが、ラッセルのパラドックスである。

 A、つまり、{x|¬(x∈x)}∈{y|¬(y∈y)}は、正しい命題にしてはいけないのだ。または、{x|¬(x∈x)}という個体が公理系の中に現れなければいいとも言える。